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【Hearthstone】カードゲームにおけるRNG(乱数生成)について再考

◆この記事の概要

ハースストーンにおけるRNG(random number generator:乱数生成)についてざっくりと時系列を追って、RNGがカードゲームにおいてどのような機能を持っているか評価する。

とても当たり前な事をやや大げさに説明してるのでそこらへんは流し読みしてもらってもいい。

 

◆前文

 今年(2021年)4月からクラシックフォーマットが新たにハースストーンのフォーマットに追加され、2014年当時のハースストーンと現在のハースストーンのゲームデザインの違いを、実際にプレイすることでより正確に評価できるようになった。この記事はクラシックフォーマットをプレイしている最中に私が再発見した事柄について述べていく。

例えば、クラシックフォーマットはプレイした時の満足度は高いにも関わらず、クラシックフォーマットで回数をこなすのはスタンダードやワイルドよりもやや重く、思ってるよりもプレイし続けにくい。これはなぜだろうか?

◆カードゲームにおけるRNGの歴史

 1993年に発売された世界初のトレーディングカードゲーム(以下TCG)「Magic: The Gathering」を祖としてこれまで数多のTCGが開発されてきた。それにもかかわらず、デジタルカードゲーム(以下DCG)が開発され、成長するまでの実に20年近くの間、カードゲームにおけるRNGは基本的にデッキにおけるカードの並び順を無作為に並べる(すなわちシャッフル)というシステムに大きく依存していた。

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シャッフルの例


もちろんコイントスやダイスロールといったRNGも有るには有ったが、その操作の煩雑さからか、メジャーなカードゲームではあまりメインとして開発されてこなかったし、プレイする側もその不安定さからロマン戦術としていることが多かった。

 ここでシャッフルというRNGの性質について少し触れておこう。この操作はカードゲームをカードゲームたらしめる重要なRNGなのである。*1多数のカードの中から数枚を引きゲームを展開していくことによってカードゲームは毎試合違うプレイ体験を可能にしている。これが将棋やチェス、リバーシといったRNGの絡まないボードゲームとカードゲームを大きく分けているポイントなのである。

 とにかく、TCGが興る以前のカードゲームの時代から近年に至るまでRNGは主にシャッフルと多少のコイントス、ダイスロールに依存していたわけであるが、ハースストーンを始めとしたDCGにおいてはコンピュータゲームであるという特徴を生かしてシャッフルではないが煩雑でないRNGが開発されてきた。

 DCGの初期に開発されたRNGは「炎の王ラグナロス」や「魔力の矢」、「ティンクマスター・オーバースパーク」のような複数のターゲットのどれかが無作為に選ばれて効果が及ぶというものであろう。

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愛すべき初期のRNGカードたち


これはギリギリ紙のTCGでも再現できるし、実際そういう効果のカードはあるにはある。しかし紙でこれを行おうとするとターゲットの数が不定であるために試合展開によっては煩雑になりかねないため、また不正の温床になりかねないためにあまり積極的に開発されてこなかった。

例えば「魔力の矢」を実際のテーブルゲームで再現するのを想像してほしい。魔力の矢が当たりうるターゲットが7つあったとして、手持ちの乱数生成器が6面ダイスとコインしかないとしよう、どのようにすべきだろうか?*2

こんな方法がある。ターゲットに1-7の数字を振りコイントスを3回する。以下の表に対応した出目の数字のターゲットに矢が当たるとしよう。

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横の数字に対応したターゲットに矢を放つ


ここで8が出た時は再抽選するとすればよい。こうすれば均等な確率でターゲットを決められる。しかしながら魔力の矢一発あたり少なくとも3回コイントスをしなければならず、コイントスが6回、9回と膨れ上がっていく可能性がわずかにあり、さらに3発処理するにはその操作を3回繰り返さなければいけない。操作の途中でターゲットが倒れた場合などはさらに分岐する。考えるだけでも煩雑だ。しかしこういった操作をコンピュータが自動でしてくれるなら話は別で、効果自体は若干の緊張を孕んだ面白いものとなりうる。ラグナロスの火の当たり方が吉凶を分けた試合は数多くある。リスクとリターンをしっかり考えてプレイしなければいけない効果なのだ。

 続いて開発されたRNGがNaxxの「ウェブスピナー」やGvGの「スペアパーツ」のメカニズムに代表されるデッキ外の指定されたプールから完全にランダムなカードを生成するというものだ。

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手札にランダムなカードを加えるカードたち


「手動操縦のシュレッダー」、「腹ペコのドラゴン」のようなランダムなミニオンを召喚する効果もこのRNGに含まれるだろう。

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指定されたプールの中からランダムに召喚するカードたち

 ここに来てDCGは紙のTCGと大きな差別化点を持つようになった。このRNGをテーブルトップで再現するのは非常に難しい。対象プールのカードを全て用意すれば再現できなくはないが、あらゆるプレイ環境を想定すると全く現実的ではない。

 ところでこのRNGは見逃せない問題点を抱えていた。それは下振れ幅が大きいということである。あまりプレイアブルでないカードが手札に来たり、雄叫び能力持ちであるために指定のマナのミニオンの平均よりも相当弱いミニオンが召喚されたりということが十分にあり得た。そしてそのためにプレイし難さ、あまり良くないプレイ体験があったのだ。*3

 しかしながらしばらくしてその問題をそれなりに解決したRNGが開発されることとなる。それがLoEで出たメカニズム「発見」である。

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今のカードと比べるとそれほどマナレシオは良くないが、それでもちょうどよい強さだった

「発見」は指定のプールから完全にランダムに選ばれた3択のカードのうちプレイヤーがどれか一つを選んで得ることが出来るメカニズムだ。これによってランダムでありながら状況に適したプレイアブルなカードを手に入れることが出来るようになった。これは革新的な発明であった。それ以降のセットでは「発見」メカニズムがよく用いられることになった。DCGにおけるランダムはこの「発見」の発明によってある程度の成熟、完成を見た。これ以降、DCGのRNGはそれほど進化していない。ある意味、現在は停滞期である。だが「発見」が単純なランダム生成での質の悪さを改善するために生まれたように、現在の主なRNGである「発見」などの長所と短所に目を向ければ次の革新的RNGのヒントがあるかもしれない。

 

◆RNGについて評価する

 ここまではRNGの変遷について見てきたが、次はRNGの質の変化によるゲーム性の変化を見てRNGの機能、功罪について評価していこう。シャッフルについて触れた時にも言及した通り、RNGの機能は主に「毎試合違うプレイ体験をできるようにする」ということである。つまるところRNGは試合展開を多様化させるためのツールである。紙のカードゲームしかなかったころは対戦相手と面と向かって対戦しなければいけない都合上、ランダムマッチが気軽にできる現在ほど試合数は多くなかったため、基本的にシャッフルだけでRNGは充分であった。

 しかしネットを介してランダムマッチや情報共有が簡単にできるようになると、RNGがシャッフルだけではすぐにコンテンツが消化されてしまうようになった。巨大な集合知の出現によってカードゲームは大量のプレイに耐えられるようなデザインへの変化を求められるようになった。そこで開発されたのが「発見」を含むデッキ外からのランダムリソース(以下デッキ外リソース)である。

 ところで、デッキ外リソースについてDCGとTCGとでは機能が大きく異なるという面白い事実があるのでこれについても触れておこう。DCGでは試合展開の多様化が主な機能であるというのは上で述べたとおりであるが、TCGにおいてはデッキ外からカードをランダムに生成することが出来ないので、デッキの外部からカードを持ってくる場合プレイヤーが用意したカードを持ってくることになる。その場合状況に適した決まったカードを持ってくることになるのでむしろ試合展開の拡がりは収束に向かう。試合展開を安定化させる機能がTCGのデッキ外リソースにはあるのだ。*4

この視点においては「発見」はDCGとTCGのデッキ外リソースの中間ぐらいの機能があると見ることもできる。この中庸さがウケたのだと私は分析する。だが一方で「発見」は、ワイルドのようにカードプールが拡がりすぎると不安定になりすぎ、スタン落ち直後のようにカードプールが狭すぎるとTCGのデッキ外リソースに近づいて、試合展開が似たような展開になりすぎてしまう。*5プールの質にかなり影響される繊細なメカニズムなのだ。したがってあまり無暗に多用されるべきではない、ゲームバランスがカードプールの変化に耐えにくくなってしまうからである。*6

 ここまではRNGをする側の視点で考えてきたが、次はRNGを含むプレイをされる側の視点でRNGについて考えてみよう。突然だが、クラシックフォーマットと現在のスタンダードではどちらの方が「プレイングが難しい」だろうか?これは私の考えではあるが結論としては意外なことに現在のスタンダードである。それはなぜかと言うと対面がランダムリソースを使ってくるために想定しなければいけない相手のプレイの幅が広いからである。*7

つまり、デッキ外リソースのようなRNGには相手のプレイを想定する難度の上昇という機能があるということだ。ある意味においてゲームを奥深くする機能であるということもできるかもしれない

 しかしながら、次の疑問についてはどうだろう。クラシックフォーマットと現在のスタンダードではどちらの方が「プレイングが報われる」だろうか?この答えは間違いなくクラシックフォーマットであろう。現在のスタンダードにおいては(主に対プリースト戦で)デッキ外リソースの氾濫により、相手の動きを想定できないほど相手のプレイの幅が広がってしまっていて、何かを想定してプレイしたとしても報われることが少なくなってしまっている。また、「ケレセス侯爵」、「ルナのポケット銀河系」から続き、現在の「詠唱者の循環」に続く、早く引いた時だけ仕事量が多くとても強いというデザインのカードについても考えてみてほしい。

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デッキに影響をおよぼすカード群


これは原始的なRNGであるシャッフルの効果をより強烈にする一種のRNGの強化カードと見ることが出来る。「○○をnターン目に引けたから勝てた」、「引けなかったから負けた」というのはあまりにもプレイングが報われないデザインではないだろうか。

一方、クラシックフォーマットではできることにある程度の制限があるために相手のプレイを想定したプレイが非常に報われやすい。また、最速で引いた時と、遅く引いた時に仕事量が違うカードも少ない。*8

とある記事(https://note.com/jey_p/n/na86ba3acadb4)の言葉を借りるとするならば、

note.com

現在のスタンダードは大量のプレイに耐えるだけの試合経験の多様性を持たせるために、自らの力で試合をコントロールできるというコントロール感に乏しい状態となっている。逆にクラシックフォーマットでは試合経験の多様性はスタンダードに比べると少ないため、あまりにも大量のプレイには耐えないが、自らの力で試合をコントロールできるというコントロール感についてはよくできたデザインであると言える。

 まとめると現在のハースストーンはRNGの多様化と多用化によって、大量のプレイに耐えられるデザインに向かっていった結果、コントローラビリティに乏しくなってしまっていて1試合の満足感が低下してしまっているのではないかと私は分析している。

◆後書き

 思っていたより書くことが多くて疲れた。*9

こういう記事は英語で書いた方が世間に及ぼせる影響は大きいことは想像に難くないが、いかんせん英語に自信がないので日本語で書くことにした。もし、その気が起きたらこの記事を英語にしてくれてもいい。(何様)

*1:ここでいうカードゲームはトランプなども含めた広義のカードゲームの事である

*2:まあつまり敵のミニオンが6体いるという想定だ

*3:手動操縦のシュレッダーのフレーバーテキストはこれをよく表現している「かつて、シュレッダーを操縦するのはゴブリンだけだった。それが今や、終末予言者/Doomsayer から探話士チョー/Lorewalker Choまで、誰も彼も乗っているようだ。」

*4:強い動きを安定して行えるというのは強いデッキの一つの形であり、TCGのデッキ外リソースは強くなりすぎる傾向にある

*5:しかもそれが強いと、より「発見」が多用されるようになり、試合展開はさらに減少するスパイラルに陥る

*6:少なくとも猛毒スコーピッドのように強いボディに発見をつけたカードを刷るようなことはすべきでない

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なぜかナーフされなかった


*7:これはワイルドのハイランダーデッキを相手にしている時にも同じことが言えるかもしれない

*8:ぱっと思いつくのは「野生の繁茂」やドローカードであるが、上に上げたカードに比べれば可愛いものである

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元祖上振れカード


*9:読む側も疲れたことでしょう、ここまで読んでいただきありがとうございます。